浮かれポンチ、ハンミュを観る

主に観たハンミュ(韓国ミュージカル)のレビュー置き場。

マーダー・バラッドの薄い話を少し深く考える方法

 

 

★★★★★ 

・2016年11月12日(土)17:30

天王洲銀河劇場

・ナレーター:濱田めぐみ

  サラ:平野綾

 トム:中川晃教

 マイケル:橋本さとし

 

 

何年か前にハンミュでやってたのを知ってて気になっていたので、再演される時に備えて予習しに見にいった作品。

かっこよかったし、私でも名前を知ってるミュージカル俳優勢揃いなだけあって、皆うまかった。ノーストレスで見れました(大事

 

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All is about the ナレーター

 

魅力の多い本作ですが、なんと言ってもこの話のミソはラストの衝撃よね。衝撃の理由は、「物語論」で読み解けるのではないかと考えました。物語論については、私は「そういうのがある」に毛が生えたくらいしか知らないのだけれども…

 

ともかく、ナレーターと、その他3人が生きている世界=物語世界とは独立している、ということが前提。

ナレーターは、オープニング曲でまだ各キャラがニュートラルな状態で舞台上に現れるところに始まり、話が進展してもずっと物語世界の外にいて、出来事を客観的に描写している。

 

物語中の人物だったら絶対に知らないような各キャラの事情にも通じているし、状況や感情の解説もする。時にはサラたちを見て、他人事のようにケラケラ笑っている。いわば、語り手と物語世界の間に距離があるものとして進んでいく作品。

 

そんな調子なのに、その語り手が、最後の最後でいきなり、その物語世界に!爆乱入!しかも登場人物を、まさかの!バットで!撲殺!することで、物語が突如として結末を迎える。その唐突さと暴力性たるや、「ひぐらしのなく頃に」もびっくり(古い

 

これは、それまで「物語と、その世界の外にいるナレーター」という構図を見ていて、バーではサラ・トム・マイケルの間だけで決着がつくと思っていた観賞者にとっては、衝撃的な「?!」を与えると思うのです。大前提であるはずの構図が突然に、そして(文字通り)暴力的な方法で破壊されたわけですから!

 

撲殺の動機はなんか、トムの彼女だったからみたいなことになってるけど、多分力点はナレーターが物語世界「内」の人物を殺すことにあって、ほんとは理由は何でも良かったんじゃないかなと思うんだよね。

 

何なら、誰が死んでも良かったくらいじゃないかしら。でもさすがにサラやマイケルを殺したら、そこで話が終わるに終わらなくなって、せっかくの「?!」の衝撃も薄れちゃうから、トムが選ばれたんだと思う。不運なトム。

 

だからトムのバーテン彼女ってのは実在していなくて、物語世界にナレーターが飛び込んでくるあの一瞬だけそれっぽく見えてるの。未解決事件になってるのもその証拠!だって彼女はいないのだから!物語世界とナレーターの世界が、一瞬交差してしまっただけなのだから!

 

と謎に力説しましたが、要は(?)人間は何てことないことで殺し、殺されるのね。

 

 

その他コメンツ&ツッコミ

 

・本作、正直話の筋は大したことないので、演技と歌のうまさと曲の好みが合うかが大事。私は好きだった。

 

・英語の元の歌詞をそのまま使っている部分が多々あって、いい割り切り方だったと思う。日本語訳の歌でしばしば発生する、少ない音に歌詞を詰め込みすぎてさだまさしの曲みたいになる現象(名づけて「さだまさし現象」)がかなり抑えられていた印象。ただ発音が良すぎて(?)、英語なのか日本語なのかさえ分からないところがたまーにあった。

 

・バーカウンターやビリヤード台の上を寝たり座ったり滑ったりしてるのに、サラのストッキングが全然破れない!すげー!ほしー!と思ってたら、やっぱり最後に盛大に穴空いてた。丈夫なストッキング探しの旅は続く…。

 

 

以上!