浮かれポンチ、ハンミュを観る

主に観たハンミュ(韓国ミュージカル)のレビュー置き場。

안나 카레니나 / アンナ・カレーニナ 生き様も舞台もあんな華麗にな

 

 

★★★★★

 

・2019年6月23日(日)14時

・ブルースクエア

・アンナ:김소현(キム・ソヒョン)

 ヴロンスキー:김우형(キム・ウヒョン)

 カレーニン:서범석(ソ・ボムソク)

 レーヴィン:최수형(チェ・スヒョン)

 キティ:이지혜(イ・ジヘ)

 パティ:한경미(ハン・ギョンミ)

 

 

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🚉壮大な小説のスリム化成功例

 

アンナ・カレーニナ、わたくし読むのが遅くて読了に一年半要したのですが、そうでなくても読みごたえのある大作。これをどうやってミュージカルにするの!と興味津々でしたが、案外すんなりすっきりということになっていて驚きました。

もっとも、一年半も読んでいたので前半に何があったかなんてほとんど覚えておらず…あらすじを読み直していきましたが、アンナ-ヴロンスキーラインと、キティ-レーヴィンラインの大筋が分かっていれば十分、という感じでした。

 

一度幕が上がれば、豪華絢爛なロシアの社交界に引き込まれます。背景が大きなスクリーンになっていて、そこに映像美が展開されます。駅舎、列車、競馬場、舞踏会場などのシーンが印象的でした。ここまで手が込んでいるともはや清々しいですね。下手なセットよりもリアルです。ゴージャスでリアルな映像で、シアター型のアトラクションみたい。

 

その中を美しいアンナとイケメンヴロンスキーが行き交い、キティとレーヴィンは可愛らしく、折々に不気味なMCが出てきて不穏な空気を漂わせます。どこを切り取っても絵になる、金太郎飴みたいな作品でした。

 

 

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これはどちらかというと小説そのもの感想ですが。アンナがヴロンスキーの心を決定的に奪う瞬間、それは舞踏会でのことなのですが、その時に着ているのが「黒いドレス」というのがまたニクい!これは原作でも黒いドレスと書かれているのですが、トルストイのセンスに感服しました。ヒロインの美貌をハイライトする場面で、普通、黒い服を着せますか?いや着せない。(反語 普通、赤とかゴールドとか、その辺でしょう。 それをトルストイは敢えて漆黒のドレスを着せて、見事にアンナの魅力を最大限に引き出したわけですねぇ。

舞台でももちろん、この黒いドレスでアンナは舞踏会に登場します。その後のふわふわコートとか、シンボリックな赤いドレスとか、ビシッとキマるヴロンスキーの軍服とか、この作品は衣装もとてもセンスがよく、登場人物の魅力を引き立てます。

 

 

🚉女の一生 名場面集

 

もちろん、見どころ、歌いどころも満載。アンナとヴロンスキーのデュエットはいくつかありますが、どれも切実で美しいメロディ。キム・ウヒョン氏、私のイメージするヴロンスキーよりは少し先輩な印象だったのですが、渋い出で立ちとイケボでとても魅力的でした。

 

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アンナは今回キム・ソヒョンさんをチョイス。初演のオクジュヒョン、チョンソナを考えるとお色気度は少し下がる今回(特にチョンソナさんのツンとした美貌とムンムンな色気と肉感的な姿が本当にぴったりで、生で見てみたかった…)。ダブルキャストのユンコンジュさんも大大大好きだけど、人妻感があるのはソヒョンさんかなーなんて。どうやったらあんなに可愛くて可憐で愛らしい美魔女になれるんだ・・・お人形さんのようでした。これならモテモテ青年士官をしてひと目で惚れさせちゃうのも納得。

逆に歌は、高音は綺麗だけど低音があまり得意でなさそう、というイメージがあったのですが、それもそこまでは気になりませんでした。例えば「私は自分の気持ちに従って愛に生きるわ!」と歌う「自由と幸福」(日本語にするとなんだか怪しげな思想の曲みたい^_^;)。ソヒョンさんが、こんなに地声で歌うとは思ってませんでした!高い裏声の方が聞き慣れてるからか心地いいけど、こんな地声も出るんだ~。新鮮。

 

 

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キティとのデュエットも良かったです。物語終盤、二人がそれぞれの立場から「自分がこうなるとはあの時は思ってもいなかった」と歌うのですが、かたや素朴ながら確かな愛を掴み、かたや蔑まれる愛の深みに嵌り、ここまで残酷な対比ってあるかしら?キティが高い場所で高音で、アンナが低い場所で低音で歌うので、声のトーンや立ち位置でもコントラストがはっきりと表れる、二人の顛末の象徴的な曲だと思いました。

 

 

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順番は忘れましたが、アンナがこらえ切れずに自分の息子に会いにいくシーンは、小説でも記憶に残っていたところだったので、取り上げられて納得でした。どんなにヴロンスキーを追いかけていても、自分の子どもはやっぱり捨てがたいんだなぁと。でもアンナ、ヴロンスキーとの子ども(ミュージカルではカットされていますが、原作では娘がいる)にはあまり興味を示さないんですよね。

 

 

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一番好きだったというか、心動かされたのはオペラのシーン。ヴロンスキーの制止を振り切ってオペラ歌手パティ見たさに劇場に来てしまい、社交界から総スカンを喰らうアンナ。「もう何もかも嫌!!」と椅子に突っ伏した時に鳴り響いたパティの歌声は、まるで異次元から聞こえてきた声かのようだったと思います。

 

この場面、セットも含めてとても好き。手前にアンナが座っていてパティがいる舞台を見上げている形で、アンナに当たっている温かい照明が不思議。その奥ではパティが高い舞台上にいて、背景には壮大な宗教画が広がっており、まるでパティが天上から、天使たちに囲まれて歌っているよう。

 

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「世界で一番美しい音色は人間の声」と言いますが、本当にその言葉がぴったりだと思いました。この場面でパティが歌う曲はメロディも歌詞も美しくて、それが美しい声で歌われていて、アンナの運命を一種決定づける致命性を持った曲。圧倒的な悲しさと超越した美しさが渦巻いて「死」という答えが導き出される場面に遭遇して、アンナじゃなくてもぼろぼろ泣いてしまいました。全体を通して見ごたえ十分の作品ですが、このシーンのためだけに見てもいいレベルです。

 

 

ソヒョンさん、カーテンコールまで泣いてたけど、これは相当堪えるだろうなぁ…。愛して悲しんで自殺して、ってすごく疲れそうな舞台だもん。ふと思ったんだけどミュージカル俳優って、一生に何回くらい舞台上で死ぬんだろう。命がいくつあっても足りないとは、ことのことだな! 

 

以上!

 

 

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